堕ちた聖女の「救済」儀式
魔王討伐に失敗し、すべてを失った勇者カイト。 牢獄から彼を助け出したのは、かつての仲間であり、信仰の対象でもあった聖女セラフィーナ。 彼女は言った。魔王の目を欺くためには「儀式」が必要だと。 しかし、祭壇に拘束されたカイトに施されたのは、聖水と聖油を使った、あまりにも背徳的な愛撫だった。
魔王城の最深部、その冷たい石畳に勇者カイトは膝をついていた。肺が灼けつくように熱く、喉の奥からせり上がる血の味が、敗北の現実を突きつけていた。荒い息が鉄錆の匂いがする空気を震わせる。聖剣はとうに手から滑り落ち、その刀身に宿っていた神々しい光は、まるで嘲笑うかのようにチカチカと弱々しく明滅している。
最後の結界は、あまりにも強大だった。仲間の犠牲を無駄にしまいと、カイトは己の生命力を限界まで注ぎ込み、神に祈り、聖剣に蓄えられたすべてのマナを解放して、ようやく紫黒の障壁を打ち破った。
だが、その代償は大きすぎた。
玉座の間に転がり込んだ彼を迎えたのは、魔王の圧倒的な威圧ではなく、下卑た笑い声と共に群がってくる魔族の雑兵たちだった。
「勇者だ! 勇者がここまで来たぞ!」
「だが、もう虫の息だ!」
「捕らえろ! 魔王様への最高の贄だ!」
カイトは立ち上がろうとした。だが、指一本動かすことさえ億劫だった。生命力を使い果たした体は、鉛のように重い。魔力を封じる呪詛が刻まれた鎖が、抵抗する間もなく彼の両手両足に巻き付いた。
引きずられていく。石畳が頬を削る感触がやけにリアルだった。
(すまない……みんな……)
薄れゆく意識の中、カイトは見た。玉座に座る魔王の、その傍らに静かに佇む、純白の人影を。
(まさか……そんなはずは……)
それが彼の最後の思考だった。
目覚めは、じっとりとした不快感と共に訪れた。 鼻をつくのは黴と瘴気の入り混じった異臭。肌を撫でる空気は冷たく湿っている。
「……ここは……」
カイトはゆっくりと目を開けた。そこは牢獄だった。粗末な石壁に囲まれ、唯一の光源は壁の高い位置にある小さな窓から差し込む、魔界特有の不気味な紫色の光だけだ。
手足には、意識を失う前に巻き付いたものと同じ、魔力を吸い出す呪詛が施された枷がはめられている。少しでも力を込めようとすると、全身に痺れが走ると同時に、わずかに残った聖なる力が枷に吸い上げられていくのがわかった。
「くそっ……」
絶望的な状況だった。魔王の目前まで迫りながら、この無様な有様。仲間たちの顔が次々と脳裏をよぎり、カイトは固く拳を握りしめた。だが、その拳はあまりにも無力だった。
どれほどの時間が過ぎたのか。空腹も喉の渇きも感じないのは、この牢の空気に含まれる瘴気のせいか、それとも己の体がすでに人としての機能を失い始めているのか。
その時だった。
コツ……コツ……。
静かな牢獄の通路に、規則正しい足音が響いた。雑兵の荒々しい足音ではない。軽やかで、それでいて一切の迷いがない、澄んだ音。 カイトはその音に聞き覚えがあった。かつて、王都の神殿で、光に満ちた回廊で、何度も聞いた音だ。
(まさか……)
足音はカイトの牢の前でぴたりと止まった。錆びついた鉄格子が、軋む音を立てて開かれる。 逆光の中に、純白の法衣をまとった人影が立っていた。
「カイト……」
懐かしい、鈴を振るような声。
「セラフィーナ様……!?」
カイトは我を忘れて叫んだ。 そこに立っていたのは、かつて勇者であるカイトを神の使いとして導き、その旅立ちを祝福してくれた聖女、セラフィーナだった。魔王の軍勢が王都を蹂躙したあの日、神殿と共に光の中に消えたと聞かされていた、慈愛の聖女。
「ご無事だったのですね……! よかった……!」
安堵と驚きで、カイトの目から涙が溢れそうになった。
「静かに。声が大きすぎます」
セラフィーナは人差し指を口元に当て、静かに牢の中に入ってきた。彼女の表情は、かつてのような慈愛に満ちたものではなく、どこか硬く、冷たくさえ感じられた。
「カイト。私はあの日、魔王に捕らえられました。ですが、神への信仰を捨てなかった私に、魔王は興味を持ったようです」
彼女は淡々と語る。
「今は、魔王の『客人』としてこの城にいます。ですが、これは好機です。私は魔王の懐に入り込み、内側からこの城を崩壊させるつもりでいました」
「そんな……危険すぎます!」
「危険を承知で、神の教えを説き続けたのです。……カイト、あなたをここから逃がします。ですが、魔王の監視の目は城の隅々にまで張り巡らされています」
彼女はカイトの枷にそっと触れた。その指先は氷のように冷たかった。
「このままでは、あなたも私もすぐに捕まる。まずは『儀式』が必要です。魔王の目を欺き、あなたの力を一時的に取り戻すための」
「儀式……?」
「ええ。この城には、魔王ですら立ち入ることを忌避する場所があります。かつて、この地が魔界に沈む前に信仰されていた古い神々の礼拝堂です。そこまで来てください」
セラフィーナはカイトの枷を、どこからか取り出した鍵で容易く外した。
「立てますね?」
「は、はい……!」
カイトはふらつく足で立ち上がった。聖女様が、あのセラフィーナ様が生きていた。それどころか、魔王城の内部から反撃の機会を伺っていた。この絶望的な状況に、一筋の光が差し込んだようだった。 カイトは、彼女の目に宿る言い知れぬ冷たさにも、その唇の端が微かに歪み、瞳の奥にかつては見なかった暗い熱が宿っていることにも、気づく余裕はなかった。
「こちらです。足音を立てないように」
セラフィーナは純白の背中をカイトに向け、牢を出た。カイトは黙って彼女の後を追った。
秘密の通路は、城の豪華絢爛な装飾とは無縁の、ただ石をくりぬいただけの殺風景なものだった。瘴気は牢獄よりもさらに濃く、時折、壁の向こうから魔族の低い唸り声のようなものが聞こえてくる。 そんな中、先導するセラフィーナの法衣だけが、暗闇の中でぼんやりと白く浮かび上がっている。いつもよりその腰のくびれが強調されて見えるのは、気のせいだろうか。神聖なはずの彼女の背中に、妙な艶めかしさを感じてしまい、カイトは慌てて首を振った。
やがて、二人は重厚な木製の扉の前にたどり着いた。扉には、見たこともない複雑な紋様が刻まれている。
「ここです」
セラフィーナが扉に手を触れると、紋様が淡い光を放ち、重い音を立てて扉が内側へと開いた。 中は、確かに礼拝堂のような空間だった。だが、カイトが知っている神殿とは似ても似つかない。天井は高く、いくつかのステンドグラスがはめ込まれているが、そこから差し込むのは魔界の紫の光で、描かれた神々しいはずの人物像はひどく歪み、苦悶の表情を浮かべているように見えた。 そして、部屋の中央には、神殿にあるような豪奢な祭壇ではなく、ただの大きな石の台が一つ、無骨に置かれていた。
「……ここが?」
「ええ。ここは魔王の瘴気すら浄化する、古い聖域です」
セラフィーナはカイトに向き直った。
「カイト。魔王の結界を破る際、あなたの体は魔王の瘴気にひどく汚染されました。このままでは、あなたの聖なる力は二度と戻りません。それどころか、あなた自身が魔性に堕ちる可能性もある」
「そんな……!」
「ですから、今から『お清め』の儀式を行います。あなたの体に染みついた『穢れ』を、私がすべて祓いましょう」
彼女の声は真剣で、カイトに反論の余地を与えなかった。
「さあ、その祭壇の上に横になってください」
「え……」
カイトは石の台を見て戸惑った。それは、儀式用というよりは、まるで生贄を捧げるための台のように見えた。
「聖女様、しかし、これは……」
「疑うのですか?」
セラフィーナの声が、一段と冷たくなった。
「この私を。そして、あなたが仕えるべき神を。ここまで来て、まだ迷うのですか」
有無を言わせぬ強い圧力だった。かつての彼女からは想像もできないような、鋭い視線。
「……いえ、わかりました」
カイトは覚悟を決めた。このまま無力でいるよりはいい。彼女を信じるしかない。 カイトは、ボロボロになった鎧と衣服をまとったまま、ゆっくりと冷たい石の台の上に横たわった。 彼が仰向けになると、セラフィーナは満足そうに頷き、祭壇の四隅に近づいた。そこには、牢で使われていたものとは違う、古めかしい革製のベルトと枷が備え付けられていた。
「これは……?」
「『お清め』の間、あなたの体が瘴気に反応し、暴れ出すかもしれません。儀式を妨げないよう、固定させていただきます」
セラフィーナは淡々とした口調で言うと、カイトの右手首を取った。 カチリ。 冷たい金属の感触と共に、右手首が祭壇の縁に固定された。続けて、左手首、そして両足首も。カイトは大の字の形で、石の台に完全に拘束されてしまった。
「セ、セラフィーナ様……本当にこれが必要なのですか?」
「もちろんです。すべては、あなたを救うため」
彼女はそう言うと、祭壇の脇に置かれていた銀の杯を手に取った。中には、無色透明の液体がなみなみと注がれている。
「まずは、瘴気を中和させるための聖水です。少々、体に沁みるかもしれませんが、我慢なさい」
セラフィーナは杯をカイトの頭上に掲げた。 液体が、シャワーのように彼の全身に振りかけられる。
「つめた……!?」
氷のように冷たい水が、鎧の隙間や服の破れ目から肌に直接触れる。カイトは思わず身を震わせた。 だが、冷たさは一瞬だった。
「な……なんだか、体が……熱い……?」
液体が触れた部分から、じわり、と奇妙な熱が発生し始めた。それは聖なる力による温かさとは違う、もっと内側から燃え上がるような、むず痒い熱だった。 聖なる香りではなく、微かに甘く、むせるような花の香りが鼻腔をくすぐる。
「瘴気が浄化されている証拠です。あなたの体が、聖なる水を受け入れているのですよ」
セラフィーナの声は、どこか楽しげに聞こえた。 カイトの視界が、ゆっくりと霞み始めた。礼拝堂の歪んだステンドグラスが、ぼんやりと滲んで見える。音が遠くなり、自分の荒い息遣いだけがやけに大きく耳に響く。 そして何より、肌が、異常なまでに敏感になっていた。石の台の冷たさ、拘束具の革の感触、湿った衣服が肌に張り付く不快感。そのすべてが、普段の何倍も克明に感じられた。
「さあ、カイト。次に、あなたの罪を『懺悔』していただきます」
セラフィーナの顔が、ゆっくりとカイトの顔に近づいてきた。彼女の吐息が頬にかかる。その吐息すら、異様な熱を帯びて感じられた。
「まずは、神の力を信じきれず、己の無力さゆえに捕らえられた『無力の罪』」
彼女の指が、カイトの胸元、ボロボロになった鎖帷子の隙間から侵入してきた。冷たい指先が、聖水で濡れた素肌に触れる。
「ひっ!?」
カイトは、まるで雷に打たれたかのように背を反らせた。
「何を驚くのですか。『穢れ』は体の末端に溜まります。特にここは、心の迷いが顕著に現れる場所。聖句を唱えますから、あなたも心を清らかになさい」
セラフィーナは、荘厳な神殿で聞くのと同じ、清らかな声で聖句を唱え始めた。
「主よ、この迷える子羊を導きたまえ。その心の闇を払い……」
だが、その神聖な言葉とは裏腹に、彼女の指はカイトの胸の上を這い回り、やがて硬く尖った突起を探り当てた。
「せ、セラフィーナ様! そこは……何を……!」
「『穢れ』の巣です。ここを徹底的に清めねば、あなたの心は永遠に救われません」
指先が、カイトの乳首を弄び始めた。最初は、まるで埃を払うかのように優しく、撫でるように。
「ん……くっ……」
聖句は続く。
「その肉の誘惑を断ち切り、魂の救済を与えたまえ……」
カイトは混乱の極みにいた。行われていることは、明らかに常軌を逸している。聖女が、勇者の、男の乳首を弄るなど、あってはならないことだ。背徳感が脳を麻痺させる。 しかし、聖水――まさか、薬か? いや、聖女様がそんなものを……。だが、体に巡る異常な熱は、明らかに尋常ではなかった。指が触れるたび、背筋に甘い痺れが走り、腹の底から熱い何かがこみ上げてくる。
「あ……や……神よ……お許し、ください……」
「そう、神に祈りなさい。あなたの罪を悔い改めなさい」
セラフィーナの指の動きが、徐々に執拗なものに変わっていく。指の腹で優しく円を描いたかと思えば、次の瞬間には爪を立てずに、しかし強く、カリカリと突起を引っ掻く。
「ああ……っ! ん……!」
カイトの口から、情けない喘ぎ声が漏れた。
「声を出してはいけません。聖句を心で反芻なさい。……主よ、その傲慢なる心を砕き……」
彼女は聖句を唱えながら、もう片方の手をカイトの腰へと伸ばした。
「次は、『不遜の罪』。この私……神に仕える聖女を、あろうことか一瞬でも疑った罪です」
彼女の指が、鎧のベルトを器用に解き、腰当てをゆっくりと外していく。
「あ……やめて……」
「何をやめるのですか? 『お清め』を? 罪を抱えたまま、魔王の城で生き恥をさらすと?」
カイトは何も言えなかった。ただ、首を横に振ることしかできない。 やがて、カイトの下半身は、薄いズボンと下着一枚の、無防備な状態にされた。
「足腰の力も失い、こんな場所で無様に横たわって……。本当に情けない勇者様」
セラフィーナは、聖水を染み込ませた新しい布――彼女はそれを『聖布』と呼んだ――を取り出し、カイトの太腿をゆっくりと拭い始めた。 冷たい布が、薬で火照った肌をなぞる。その温度差が、また強烈な快感となってカイトを襲う。
「ん……ぅ……っ」
聖布は、ゆっくりと、しかし確実に、太腿の内側へと進んでいく。 カイトの股間ギリギリのラインを、何度も、何度も往復する。
「ここは『穢れ』の通り道。念入りに清めなければ、またすぐに罪が溜まってしまいます」
彼女はそう言いながら、聖布を当てたまま、その上から指で内腿の付け根を強く押した。
「あぐっ……! そ、そこは……!」
「ここですね。あなたの『穢れ』が、最も色濃く残っている場所は」
セラフィーナの指が、聖布越しに、カイトの股間の中心へと、じりじりと近づいていく。 カイトの理性が、限界を迎えようとしていた。
「もう……やめてください!」
カイトは、残ったすべての力を振り絞って叫んだ。
「セラフィーナ様! お願いです! おかしいです、これは! こんなの……『お清め』なんかじゃ……!」
懇願の叫びが、歪んだ礼拝堂に響き渡った。 セラフィーナの指が、ぴたり、と止まった。 聖句の詠唱も止み、礼拝堂に重い静寂が戻る。 カイトは、拘束されたまま荒い息を繰り返し、彼女の反応を待った。 セラフィーナは、カイトの股間に手を置いたまま、ゆっくりとうつむいた。その肩が、微かに震えているように見えた。
(ああ……やはり、俺の勘違いだったのかもしれない……)
カイトの心に、安堵と、そして聖女を疑ってしまったことへの強烈な罪悪感が湧き上がった。 (俺はなんてことを……。瘴気にやられて、聖女様を疑うなんて……)
「セラフィーナ様……あの、俺は……」
カイトが謝罪の言葉を口にしようとした、その時。 セラフィーナが、ゆっくりと顔を上げた。 その顔は、カイトが知る慈愛に満ちた聖女のものではなかった。 目に宿るのは、底知れない侮蔑と冷たい歓喜。 そして、その唇は、恍惚とした妖しい笑みに歪んでいた。
「……くすっ……」
「……あはっ……あははははっ!」
甲高い笑い声が、礼拝堂に響き渡った。
「せ、セラフィーナ様……? いったい、何を……」
「『おかしい』? ええ、そうですよ。その通りですわ」
彼女は、カイトの股間からゆっくりと手を離し、立ち上がった。そして、まるで舞台役者のように両手を広げ、カイトを見下ろした。
「やっと気づきましたか、愚かな、愚かな勇者様」
彼女がまとっていた純白の法衣が、まるで幻覚のように、その裾からじわりと黒く染まっていく。
「魔王を欺くため? 内側から崩壊? そんな子供だましの嘘を、あなたは本気で信じていたのですか」
「な……ぜ……。あの日、神殿で……あなたは、魔王に……」
「ええ、捕らえられました。そして、理解したのです」
セラフィーナの目が、妖しく紫に光る。
「神は、無力でした。あれほど祈りを捧げたのに、私を、民を、救ってはくれなかった。……でも、魔王様は違った」
彼女はうっとりと自分の掌を見つめた。
「魔王様は、私に『力』と、そして何物にも代えがたい『喜び』を与えてくださいました」
彼女の指が、カイトの頬を優しく撫でる。その仕草は、かつての聖女のものと同じなのに、今はぞっとするほどの冷たさしか感じなかった。
「そして今、最高の『喜び』が、こうして私の目の前にいます」
「……やめろ……」
「聖なる勇者カイト。神々の祝福を一身に受けし、光の御子。あなたが……。高潔で、純粋で、誰よりも神に近いあなたが、この私の手によって穢され、堕ちていく……」
セラフィーナの頬が、興奮で高揚している。
「これ以上の快楽が、これ以上の『救済』が、この世のどこにありますか!」
「この……堕ちた聖女め……!」
カイトが憎しみを込めて吐き捨てると、セラフィーナは心底楽しそうにクスクスと笑った。
「さあ、勇者様。お清めの続きをいたしましょう」
彼女の冷たい視線が、カイトの下半身へと注がれる。
「あなたの最大の『穢れ』が、まだ、そこに残っていますわ」
「さわるな! 汚らわしい手で、俺にさわるな!」
カイトは、拘束された手足で必死にもがいた。だが、革のベルトはびくともしない。
「あらあら、口が悪いですね。神に仕える身であったこの私が、直々にあなたを『救済』して差し上げようというのに」
セラフィーナは、カイトの抵抗をまるで意に介さず、彼のズボンの留め具に手をかけた。 カイトの最後の尊厳であった布が、無慈悲に引き下げられていく。 薬の効果と、ここまでの背徳的な愛撫、そして今は恐怖と屈辱によって、カイトの局部はすでに硬く、惨めなほどにその存在を主張していた。
「……!」
カイトは屈辱に顔を歪め、固く目を閉じた。
「あら、まあ……。口ではあんなに嫌だと言いながら、体はすっかり正直ですこと」
セラフィーナは、楽しそうにカイトのペニスを観察している。
「さすがは『勇者』様。穢れの源も、実に立派ですわね」
「……殺せ……。もう、俺を殺してくれ……」
カイトの目から、屈辱の涙が一筋、こめかみを伝った。
「殺す? とんでもない」
セラフィーナは、カイトの涙を指先で拭うと、その指をぺろりと舐めた。
「これから毎日、毎日、あなたを『清め』なければならないのですから。簡単に死なれては困ります」
彼女はそう言うと、祭壇の脇から、今度は金色の小さな小瓶を取り出した。
「これは、特別に調合された神聖なる『聖油』です。これを使って、あなたの罪の根源を、芯から清めて差し上げましょう」
セラフィーナは小瓶の蓋を開け、カイトのペニスの上で逆さにした。 とろり、とした粘度の高い、黄金色の液体が、ゆっくりと先端に落ちる。
「ひ……っ!?」
聖水(淫薬)でこれ以上ないほど敏感になった肌に、その油が触れた瞬間、カイトの体は再び弓なりになった。 熱い。熱いのに、どこかひんやりとして、それでいて痺れるような甘い快感が、そこから全身へと一気に駆け巡った。
「あ……あ……っ! あ……!」
「神よ、この哀れな子羊の、その罪深き肉体を洗い流したまえ……」
セラフィーナは、再び聖句を唱え始めた。だが、その声はもはや神に捧げるものではなく、カイトを責め苛むための呪詛のように響いた。 彼女の指が、聖油をペニス全体に塗り広げるように、ゆっくりと動き出す。 指の腹だけを使った、ねっとりとした動き。決して爪を立てず、しかし確実に快感の芯だけを捉えてくる。それは、神殿で学んだという治癒の聖術を応用した、逃れようのない愛撫だった。
「あ……ああ……っ! んぐ……! や……やめ……!」
「清めて……清めて……あなたのすべてを、この私の手で……」
彼女は恍惚とした表情で、自分の指がカイトの男らしさを蹂躙していく様を見つめている。 カイトの腰が、意思とは無関係に、彼女の手を求めるように浮き上がる。
「いいえ……まだです……」
彼女は、カイトの動きに合わせて、巧みに手の動きを緩めたり、強めたりする。
「あ……! あ……っ! も……だめ……イく……っ!」
カイトの意識が、快感で白く染まり、すべてが弾け飛びそうになった、その瞬間。
ぴたり。
セラフィーナの手が、動きを止めた。
「……え……? あ……?」
「だめですよ、カイト」
彼女は、冷ややかに細めた目で、カイトを見下ろした。
「『イく』ことは、すなわち『罪』の放出。この神聖なる礼拝堂を、あなたの汚らわしいもので汚すおつもりですか?」
「あ……う……ぐ……」
行き場を失った熱い奔流が、体中を逆流し、カイトの全身を激しい痙攣が襲った。
「まだ『お清め』は終わっていませんわ。あなたの罪は、そんなものでは洗い流せない」
カイトが絶頂の余韻で震えている間に、セラフィーナの手が再び動き出す。今度は、さっきよりもゆっくりと、根元から先端までを、じっくりと確かめるように。
「ああああ……っ! ま、また……! すぐ……!」
「本当に、しょうがない方。……主よ、この者の早漏なる魂に、忍耐を与えたまえ……」
再び、絶頂が迫る。
「い……イかせ……て……!」
「だめです」
ぴたり。
またしても、寸前で止められる。
「ぐ……ううう……っ!」
涙と涎で顔がぐちゃぐちゃになっていた。もう、勇者の威厳も、聖女への敬意も、魔王への怒りも、何もかもがどうでもよくなっていた。ただ、この苦しいほどの快感から解放されたい。その一心だった。
「どうしました? 苦しいのですか? 罪が浄化されるのですから、当然ですね」
セラフィーナは、カイトの反応を心底楽しんでいるようだった。 彼女は、今度は先端の敏感な部分だけを、指先でくすぐるように弄び始めた。
「ひ……あっ……! そこ……は……!」
「罪の出口は、特に念入りに塞いでおかないと……。ここから、また新しい罪が生まれ出てしまいますから」
「あ……あう……! も……むり……!」
三度目の絶頂が、カイトの意思を無視して迫りくる。
「イく……イッてしまう……っ!」
「だめ、と、言っているでしょう」
ぴたり。
「あああああああああっ!!」
解放されない快感の地獄。カイトは、もはや自分が何をされているのか、何を求めているのかさえ、わからなくなっていた。 涙目で、息も絶え絶えに、カイトは目の前の女――かつて聖女であった存在に、懇願した。
「あ……もう……だめ、です……おねがい……します……」
「……何を、お願いするのですか? 罪深い、罪深い勇者様」
セラフィーナは、カイトの耳元で、甘く、悪魔のように囁いた。
「イかせて……ください……。勇者なんて、もうどうでもいい……! ただ、楽になりたい……っ! お願いします、許してください聖女様……!」
理性を失い、快楽に屈した勇者が、ついに堕落した聖女に射精の『許し』を請うた。 その言葉を聞いた瞬間、セラフィーナの顔が、これまで見せたことのない、恍惚とした歓喜の笑みに満たされた。
「……ええ。よく言えましたわ」
彼女は、カイトの額に、優しくキスを落とした。
「『許しましょう』」
その言葉が、合図だった。 止められていたセラフィーナの手が、それまでの焦らすような動きとは打って変わって、カイトのペニスを根本から掴み、猛烈な速さで動き出した。
「あ……あ……あああああああああああああああっ!!!!」
カイトの絶叫が、礼拝堂にこだました。 拘束された体が、祭壇の上でこれ以上ないほど弓なりに反り返る。 視界が真っ白に染まり、快感の嵐が全身を吹き抜けていく。 セラフィーナは、そのすべてを、いつの間にか用意していた銀の聖杯で、一滴もこぼさぬよう、厳かに受け止めていた。
「ああ……これが……。これが、聖なる勇者の『魂』……」
カイトが吐き出した純白の精気を、彼女はうっとりと眺めている。
「なんて、穢らわしくて……。なんて、美しい……」
カイトは、意識が闇に落ちていく中、聖杯に満たされた自分のすべてを恍惚と見つめるセラフィーナの姿を、ただ、ぼんやりと見ていることしかできなかった。
どれくらい時間が経ったのか。 カイトが次に意識を取り戻した時、彼はまだ祭壇の上に拘束されたままだった。 精気を根こそぎ搾り取られた体は、指一本動かす気力も残っていない。ただ、ぐったりと脱力し、虚ろな目で歪んだ天井を眺めているだけだった。 魔王討伐? 仲間たちのこと? そんな使命感は、もう、あの強烈すぎた快感の記憶の彼方に霞んでいた。
「お目覚めですか、勇者様」
セラフィーナの声がした。彼女は、あの銀の聖杯を片手に、カイトの顔を覗き込んでいた。その表情は、儀式を終えた聖職者のように、どこか清々しくさえあった。
「お疲れ様でした。今日の『お清め』は、ひとまず終わりです」
「……あ……」
カイトの口から、意味のない声が漏れた。
「しかし……」
セラフィーナは、カイトの汗で湿った額を、聖布で優しく拭った。その仕草だけは、不思議と、かつての慈愛に満ちた聖女のものと変わらなかった。
「あなたの『穢れ』は、私が思ったよりも、ずっと根深いようですわ」
カイトは、虚ろな目で彼女を見上げる。
「一度こうして清めただけでは、またすぐに、この魔王城の瘴気に汚染されてしまうことでしょう」
「……」
「ですから……」
セラフィーナは、この上なく甘美な微笑みを浮かべた。
「『お清め』は、毎日、必要ですね」
カイトの虚ろな瞳が、その言葉に微かに揺れた。
「明日も、明後日も、あなたが完全に清められ、その魂が救済される、その日まで……」
彼女は、カイトの唇に、そっと指を触れさせた。
「この私が責任をもって、あなたのその忌まわしい『罪』を、毎日、毎日、搾り尽くして差し上げますわ」
カイトの口から、再び「あ……」と吐息が漏れた。 それが、最後の抵抗の声だったのか、それとも、次の「お清め」を渇望する喜びの喘ぎだったのかは、もはやカイト自身にもわからなかった。 セラフィーナは、満足そうに微笑むと、カイトを拘束したまま、礼拝堂の闇へと消えていった。
祭壇の上には、ただ、次の「救済」という名の快楽地獄を待つだけの、哀れな肉塊が一人、残された。